3rdアルバム「無常」 セルフライナーノーツ

3rdアルバム「無常」のセルフライナーノーツを書きました。

mujo_frontimage

前書き

僕の1stアルバム「水のかたち」のリリースから10年経ちました。また、水のかたちに収録したかったけれど容量の関係などで全カットした冬の録音のみを収録し、「水のかたち」と対になる作品として生み出した「無常」をリリースしてから3年が経ちました。どういう環境下でどういう状態で録音制作しているのか、何をやっているのか、どういうところに松本が面白味を感じているかなど、音源を正確に聴いてもらいたいとは思っていないですし、誤解が生まれるのは問題ありませんし、自由に聴いてもらいたいのですが、象徴的であるなと思っていた環境音でも「コレって何の音なんですか?」と質問される事もあり、音の事に今は造詣が深くない方にも、音から読み取れる情報量をよりキャッチしてもらえないだろうかと思い、リリースから3年以上経った事もあり、セルフライナーノーツを書いてみようと思いました。

僕の作品をより知っていただくためにも読んでいただけたら嬉しいです。

「無常」disc.1

◼︎M1「彼誰」

無常に収録している音源の中で最初期に録音した音源。フィールドレコーディング。空が白みがかる直前の録音。全結氷した湖上は天気にもよるけれど、聴こえているのは大気の音くらい。気温は氷点下で寒いけど、この時間帯が一番好き。世界に自分しか居ないような気分になる。

耳の高さを氷上に落とすと氷が鳴っていたりするけれど、気温が上がる夜明け前じゃないと微細な音はあまり直耳では聴けない。ハイドロフォンでも使用して氷内部の音でも聴かない限り粒だった音の種類は少ないので、この時間にいわゆる演奏行為をしようという気には基本ならない。景色を眺めたり、珈琲でも飲みながら一服したり、寒さを楽しんでいたりする事の方が多い。よく行く湖の夜明け頃の気温は-10〜15℃くらい。

泊まり込みで録音制作をする事も多いんだけど、湖に出向いた際に到着するのは夜明け前なので、録音の準備をしている事が多いのもこの時間帯。

「彼誰」の録音データは60分あり、そこから切り取ったのは2分間ですが、聴くと始まりの時間と体感が一瞬で蘇る。

音源では音数が多いものを選んでいます。また、レコーダーをかなり湖に近づけています。

フィールドレコーディングといっても、他の方々がどのように録音しているのか知らないので何とも言えませんが、録音中に何もせずただそこに居るだけだったとしても、環境音に影響を与えているものだと僕は考えています。森や山でじーっと音を聴いていたりするとよくあるあるなんですが、最初は生き物たちが警戒してて静かなんだけど、時間が経つと環境に同化していって、意識されなくなるって事がよくある。動物も近づいてきたり。それらは動物だけではなく、動物を通じて植物などにも影響を与えていると考えるし、目には見えていない微生物にも影響を与えて伝わっているものだと思っていて、その場のネットワークに溶け込んでいく作業。その場で何もしていないなんて事はあり得ないと僕は考えています。

◼︎M2「鐵に花」

この録音をしたのは冬の湖での録音を初めてから2年目。群馬県の榛名湖に金属屋根の下に船が5〜6艘置かれている場所があって(白鳥をかたどった船がある所)、1年目と2年目はその場所で録音をしていた。これを読んでから音源を改めて聴いてもらえると、全面結氷した湖の音や大気の音と共に、鉄が鳴っている音も聴き取れると思います(1:59〜2:00で鳴ってる音がわかりやすいです)。拾うか拾わないかくらいの音量で色々やってはいるんですが1:10までわかりやすく鳴らした音は無くて、鉄骨も鳴っていますが、それまでに聴こえる音は基本全面結氷した湖から鳴っている音です。

録音で使用している波紋音という音具の素材も鉄な事もあり、低温が作り出している音像にグッとくる。また、2:17あたりで起こる氷の音の直前に自分が音を起こしている流れが好き。当時録り終えた時に嬉し過ぎて拳を強く握ったと思う。というのも、榛名湖は温泉地で午前7時頃になると温泉の従業員の方が通勤されるので、20〜30分に1台のペースで車が通る。湖がメチャクチャ良い音が鳴っている流れだったとしても、金属屋根がある場所の背後で車が通るので、1年目と2年目は何度もNGテイクを繰り返していた事もあり、この録音が出来た事が自分的にはかなり奇跡的なタイミングだったなと思う。まぁ、今となって思えば、人も居る場所だというのに、何故人の気配を排除して、車の音を巻き込んだ録音をしなかったんだろうとは思うけど。局地で録音した作品に仕上げたかったという未熟さ。何はともあれ、完成し販売されている今となっては、録音されたこの時間は紛れもない真実なんだけど、この録音以外の失敗して実験してきた時間を感じる。1発録音ではあるけれど、無数の時間があったから辿り着いた録音。

演奏方法としては、波紋音を極々微音量で、叩くというよりも触れるくらいで鳴らす。アタック音(打音)がわからないくらいの質感で。2:30とか3:00とか3:13〜19に入っているような波紋音を擦って鳴らしたり。そのほかの音は大半が湖が鳴っている音。機材は波紋音と小さい銅鑼を使っていて、他にもマイクに拾うか拾わないくらいの音を無数に入れている。寒冷地での録音を積み重ねて行く中でそれらの精度が増していってるんだけど、そういうところもこのアルバムを通して聴いてもらいたい点だったりする。タイトルの「鐵に花」は、この録音をしている時は雪がパラついて、波紋音上に落ちてきた雪の結晶が花のように美しかったので付けたタイトル。難しい「鐡」の字を使用しているのは、自分の名前の「哉」が入っているから。

◼︎M3「住処」

こちらも2年目か3年目に録音した音源。AM10:00くらいに結氷した湖の真ん中辺りで録音。「鐵に花」「住処」「夜は山から風が吹く」「鐵冱つる」はMR-1000という1bit録音が出来るレコーダーで録音した。この頃はまだマイクも全指向のマイクを用いておらず、コンデンサマイクのみで録音しているので指向性が狭い。狭いから故に録れている音像。録音の最後の方で結氷している湖が大きく伸縮をして湖中を亀裂が起こりまくる音が入っているんだけども、この録音中にiPhoneで映像を撮ってたので見返してみると、氷割れて落ちるんじゃないかと周りをキョロキョロしていてメチャクチャビビってる。無常の曲順の大半は実際に録音が出来た時系列に並べているんだけど、この録音まではまだ1st「水のかたち」の時の感じで音を鳴らしているなと思う。感覚的な事なので言葉では伝わらないかもだけど、ちょっと寄り添いすぎだなーと今聴くと思う。逆に今はそれが出来ないかもしれないが。

たまにコロコロ鳴ってるのは波紋音の上に丸い木の玉を乗せて動かしてる音で、ライブでは全然やらなくなったけど2013〜14年頃まで自分の中でブームだった手法。それ以降はもっと身体的に音を生み出す事に重きを置いていった。

1:31の音は小さい銅鑼の音。

2:32の音は多分僕が鳴らした音だと思うけど、どうやったのかもうわからない。

2:45から起こっている氷鳴りはdisc2 のM7「交差点」でも同じなので聴き比べてみると面白いかもです。

◼︎M4「点」

M4「点」、M7「網」、M10「汀」は湖の時間経過による音の変化を並べたシリーズ。「彼誰」と「誰彼」は録音場所は違うけれど同じく録音時間を意識した流れでアルバム構成した。「点」は7時くらい。湖上で目では認識出来ないくらいの小さな穴から小さな小さな泡が時折出ているのを発見したので録音した。湖時間経過シリーズは全部ハンディレコーダー。

◼︎M5「浮舟 」

群馬県にある小沼という湖。強風の日。確かAM7:00〜8:00くらいだったと思う。白い山に囲まれている湖上に防水仕様の敷物の上に機材を並べていて、はっきりとした霧の塊が、風が吹く度に線を象って流れてくる。景色の中で動いているのは霧だけで、自分はもちろん動いていないんだけど、雲が動いているのか、自分が進んでいるのかわからなくなった。それが、凍った湖なんだけど、凍っていない湖の上に浮かぶ舟の上にいるみたいだなと思ったから「浮舟」というタイトルにした。音を入れているのも船の上という感じで。風や湖が起こす音に混ざって。

氷鳴りが起こっている大気中の音がベースに、氷が恐縮したりする事で起こる破裂音(0:33や0:55あたりなど)が鳴り続けている。

この録音は2016年か2017年だったと思うけど、この頃からレコーダーが入力数が8チャンあるZOOMのF8をメインで使用するようになり、QTCの無指向マイクを導入。自分の手元にオンマイク、環境全体の音を狙うためにQTCという布陣になった。マイクは全部で5本。アンビエントに2本、オンマイクに3本。ずっとホワホワ鳴ってるのは結氷した湖の音。

余談ですが、テイラーがマスタリングでカラスの鳴き声について触れてくれてて、僕的にはテーマが氷で、この録音に関しては風だったので、メールをもらった先にカラスはまぁ良いんだけどなぁと思ったんだけど、完成図を強く持っていた自分はちょっと氷や風、自分が起こしている事により過ぎているかもなと、ちょっと偏ってたなとテイラーに気づかせてもらった。

1:55あたりから強めの風。

2:30頃には破裂音が起こる間隔が長くなっているけれど、湖全体がより鳴っている音がしている。

3:00過ぎくらい点で起こるリズムを繋ぐ意識。再び破裂音が起こってきたので線に戻した。そんな感じ。

◼︎M6「氷平線 」

この録音では金沢健一さんの造形作品「音のかけら」を使って録音していて、「音のかけら」は厚み1〜2cm、直径30cmくらいの1枚の円形の鉄板を、7〜8つくらいに様々な形に熔断してある造形作品で、1つ1つのかけらの裏面に硬めのスポンジ状のモノが複数付いているんだけど、それで湖を擦ったり、音のかけら同士を擦り合わせて音を鳴らしている録音。側から見たら結氷した湖の中央で四つん這いになって湖を擦っている人という光景。
某ミュージシャンに2014年くらいの段階で一度氷の音源としてまとめたので聴いてもらった際に、氷を擦っている音だと気がついてもらえず、ずっと鳥が鳴いているんだと思ってたと言われ、そんなにも伝わらないのかと思った記憶。何をどうしているのか全部が全部理解されたいわけではないけれど。マイクを10本立てています。ずっとなり続けているのは湖の音。

0:05音のかけらと音のかけらが当たった音

波紋音で鳴らした短音から0:40くらいの湖の氷鳴りが起こったという感覚。

最初からやり続けているけれど1:00〜で氷鳴りと音のかけらを滑らせてる音と、たまに音のかけら同士を当てる音、そしてたまに音のかけらのクッション(スポンジみたいな素材)で氷を氷上の水分のある所で鳴らす音(1:38とか)などを、湖全体で起こっている事を感じながら同化。

3:40予兆。少し待機。そして波紋音短音。4:20に繋げた。

4:20秒あたりの音はM2「住処」と同じ種類の氷鳴りの音。

◼︎M7「網」

PM12:00くらいの湖の状態。お昼くらいになると土地や場所や天候にもよるんだけど、気温が高いと湖の汀の辺りでは氷が結構溶けてたりするので、氷の塊が水に浮かんでたりもする。氷の音に80水の音20くらいの割合。
時間経過を聴かせたい(見せたい)と思うのは映像的な意識なのだろうか?と今となって思う。

◼︎M8「雨ではない雪でもない」

晴れてて無風の深夜に録音をしながら疲れ果てて眠ってしまって、1時間以上眠っていたんだけど、ふと気がついたら雪がしんしんと降っていて、服にもレコーダーにも音具たちにも雪が積もっていた。録音を聴いてみたら雪が積もっていく経過と共に音が変化していく様が録音されていた。それ全部を収録したい気持ちなのだけども、容量の関係で無理なので、次の M9「白い闇」への流れを作りたく、シーンの変わり目に入れる風景カットのように収録した。
録音環境で雨や雪が降っているわけではないのだが、こんな音像が録れた喜び。雨のような音だなと思うけど、そして、厳密にいうと雪なんだけど、聴いてもらいたいポイントがそこではないのでこのタイトルにした。

◼︎M9「白い闇」

ホワイトアウトが起こっている環境下で、銅鑼で人工的に持続音を鳴らした録音。マイク8本+ハンディレコーダー2機。風が吹いて湖の上を大きな枯葉が流れていっている音が入っているんだけど、その中の1つは、銅鑼を擦りながら、自分で氷上を葉っぱで擦っている。周囲が見えていなかったので、どこまでが自分でどこまでが環境音なんだっけか?と後に聴き返してもわからない点が多い。実際は40分くらいやってるんだけど、容量の関係で後半は丸々カットした。この録音以降、ライブで銅鑼を鳴らしている時の時間感覚は、この時の体感を元にしている事が多い気がする。あと、湖全体で中低域の持続音が鳴り続けているんだけど、この時の湖上の音環境に再び出会った事が無い。どれくらいの氷の厚みで、どれくらいの気温、風量、日射量、湿度だとこんな音像になるのか。もしかしたらかなり特殊な状態だったのかなと思う。マイクも毎回勘で置いてるし、ただでさえ冬の録音に銅鑼を運搬するのがかなりしんどいので2〜3回しかやってないんだけど、我ながらよくこの日に持っていって、よく1発で決めてるなと自画自賛。もう一回やれと言われても出来ない。それ言い出したら全部そうだけど、特にこの音像は無理って思う。時間帯はAM9〜10:00くらいだったと思う。ちなみに低温を鳴らしてるところよりも、中域をゆっくりやっている6〜10分くらいのところが1番好き。もう4〜5分続いてほしかったんだけど環境音の流れ的に短めになってる。帰宅して聴いた時にまだまだ青いなと思ったのを覚えてる。同じような音環境が2度とこないかもしれないので、これで決めるぞと、逃さないぞという集中力がいい感じだなと我ながら思う。反応速度も勘もいい。未来予測も出来てる。銅鑼の低音を鳴らし始めた所からは、音のモードが変わってて、環境音を完全にエフェクトだと捉えてる。

湖全体で起こる事から生まれている大気の音に銅鑼の音をひたすらしのびこませている。明確に銅鑼だとわかる音もあれば、コレも実は銅鑼で起こしている音なんですよっていう音もある。短音で鳴らしている音があったり、高域で鳴らす音はわかりやすいですが、中低域の音は大気の音に混ざっていて判別つかないと思います。ちなみに基本全編鳴らしてます。

2:44のようなソレまでに無かった特徴的な事が起こった最中、またはその後の展開を瞬時に頭の中で編集しなければならないのでセンスが問われる。この時は高域や短音を減らして、ここから銅鑼の持続音を変化させていこうという展開にして、聴こえ方のピントを変えようとした。風がまぁまぁ起こっていて、風の音や枯れ葉が氷上を流れている音でひと展開あってからの、葉っぱが止まるタイミングでハイ、終わりみたいな氷鳴り(5:33)が鳴ったので反射で銅鑼を鳴らした。起こしてしまったので、変化をと思い銅鑼に揺らぎをつけてみる(6:30〜)。

9:00くらいで最も低音に以降するためにひと展開。

もっと上手い事低音にゆっくり変えたかったかのだけども手が悴んで(素手じゃないとコントロール出来ないので)、スッと変わってしまった(10:28)。

低音を鳴らしている10:30以降のところを低音がすっかり鳴るスピーカー、または低音がしっかり鳴るヘッドフォンで聴くとこの録音の真価を感じられるので、そういう環境で聴いてもらえると嬉しい。

15:20に入れてる銅鑼とかもだけど、結構音楽的な事も意識してやってる。ソレは多分1st「水のかたち」の「ひぐはしそのひぐらし」を意識してたから。

余談ですが、この音像、実は自然と俺だけじゃない別の要因も加わって構築されている。周りが見えなかったので多分ですが。

◼︎M10「汀」

PM17時頃の湖の状態。日によっては汀付近では大分溶けていて、氷の塊がプカプカしていたりします。日が暮れてしばらくしたらまた凍って、不意に音が無くなるんだけど、氷の音で1日の時間経過を感じられてとても良い。CDの容量では収録しきれないんだけど、そういう変化も少しでも感じてもらえたらと思う。

たまに石投げたり。氷上をグリグリしたり。1:35とかの低音の氷鳴りも良いよなぁ。好き。

◼︎M11「誰彼」

M10「汀」と時間帯はそんなに変わらないんだけど、タイトル通り黄昏時=誰そ彼時。フクロウの鳴き声を聴きながら、木をコツコツしている録音なんだけど、流れの中で大きな波紋音を鳴らしたら動物が鳴いた。何が鳴いているのかは知らない。人の見分けがつきにくい冬の夕暮れどきの薄暗い時分、雪が積もっていたり、氷の上では歩いている動物の音が至近距離でも全く聴き取れないので、知らずのうちに、気配に反応して音を鳴らしていたり、何か行動を起こしていたりするんだと思う。日暮の音の間は日本的だなと思っているからこんな音像になったんだと思う。混ざり過ぎてて自分でもどれが自分の音か判別しづらい。

◼︎M12「夜は山から風が吹く」

タイトルそのまま。録音中たびたびパラパラと鳴っている事に気がつくと思いますが、これの大半は自然に起こっている音ではなくて(自然に起こっているものもありますが)、僕が小さな葉っぱやら色々な粒を飛ばして起こしています。最初は風で手元に置いていた発泡スチロールが飛んだんです。あ、これええやんってなってやってた。2:46〜とかでカラカラ鳴ってるのが細かい発泡スチロールを掴んで離して風で転がっている音。
MRー1000でマイクは2本。小さい銅鑼とシンギングボウル中心で録音。

何故この様な枯れた感じの風の音が録れてるのかはわからない。

1:20や1:50や2:05は小銅鑼+中くらいのバチの音。

◼︎M13「鐵冱つる」

深夜1時〜2時くらいに結氷した湖の真ん中での録音。真ん中である事に意味は無く、真ん中で録音した事ないからやってみようと思っただけ。何も真夜中にやらなくても良かったかなとは後に思った。M R-1000で録音。極小音量で波紋音の上に木の玉を乗せて転がして音を鳴らしています。音源では2分31秒を切り取っているので、そこだけ聴くとまぁまぁ音数があるけど、実際は音が鳴っているのがほぼ稀。あとかなり音量上げてます。録音時間外にどれくらいの頻度で音が鳴るのかを確認しながら音をたまに鳴らしつつ、アイドリングしながら只管寒さに耐えていた記憶。月が綺麗な日で明るかった。

1:00過ぎくらいから聴こえる音は玉の転がる音。

◼︎M14「ひとひとひと」

深夜に湖畔で焚き火をした際の録音。水のかたちにも焚き火と雨音の録音を入れたので、無常にも入れようと思っていた。水のかたちの「もえもえ燃える雨ふるふる」と聴き比べてもらえたら。火と、水と氷。タイトルの「ひとひとひと」は「火と氷(ひ)と人」って理由。僕も色々やってます。マイクは4本。

例によって色々やってますが、別にソレを判別出来たら凄いとか、そんなクイズみたいな事ではない。よく聴くと深夜の湖の微弱な氷鳴りが聴こえます。

◼︎M15「根」

氷柱から雫が垂れている音をハンディレコーダーで。氷柱が出来ていたのが木の枝だったんだけど、そこに出来ていた氷柱が根っこのようだなと思ったのでこのタイトルにした。

実はこれ、氷平線と同じ時間のただのフィールドレコーディング。気付いてた人居たら凄い。

◼︎M16「今はもうない」

真夜中のオホーツク海に浮かぶ流氷の上での録音。沖の方まで流氷がギッシリあるわけではなく、浜辺から100メートルくらいの所までしか流氷が無い状態。流氷があるので、いわゆる波打ち際の音が無い。ザッパーンとなるのは1〜2分に1度くらいのテンポ感。浜辺なので流氷は地面に面しているわけなのだけど、真っ暗なのもありどんな状態なのかは目視はできないけれど、流氷と流氷の隙間には海水が随時流れていて、海水と流氷が当たっている音が常に聴こえてくる。そのダイナミクスを感じながら、15〜20メートルくらいの間隔をあけた状態で左右にマイクを設置し、その間の数カ所に波紋音を設置。移動しながら。水のかたちでも最後の音源「波に消える波紋音」との対比。「今はもうない」の方が「波に消える波紋音」よりも抜群に環境音そのものに溶けているなと自分で思う。マイクは4本。あとハンディレコーダー。

余談ですが「今はもうない」は敬愛する森博嗣先生のS&Mシリーズの小説タイトルから拝借したのだけども、音像は瞬間瞬間に変わっていき、同じ瞬間は2度と訪れないというのに、自分は一体何を聴き続けているんだろう?今聴いていた「今」ってどれのことなんだろう?音の一体何を、どの部分を自分は聴いているのだろう?と不意に思うことがある。今はもうないというのに。瞬間を聴き続けようとしている自分の態度が、自分の人生なのだと確信しているので、この先もずっと音を通して人生の実ってやつを味わっていこうと思う。

他にも微かに鳴らしてるところや、波の音にかき消されて聴こえていないはあるけれど、主だったところは、

1:29、2:10、2:36、2:48、3:15、3:24、4:18、4:29、5:16

「無常」disc.2

disc2は湖の中で起きている事、音と共に制作した版。全編水中マイクを使用してます。

◼︎M1「脈」

冬になる度に結氷した湖に出来かけては録音を繰り返していたある時期から、伝染していく事とか、目には見えていないけれど影響を与え合っている事や、通っている各地の場所で起こる事象をより感じたり認識したり、氷の(水の)音の伝わり方が電気みたいだなと思った(0:36あたりで鳴っている音とか)事などなど、それらの事から「根っこ」というワードとか「伝わる」って事を強く意識するようになった。それは水のかたちの時から、いや、それ以前から思ってはいたのだけども、冬の静止した世界でも感じた事から、より意識するようになった。少し話は変わって、初めて携帯電話を持ち、メールアドレスを何にしようか?と幼馴染に相談した際に「一哉は人の心に敏感に反応するよね。そして鏡のように反射したり似せたりするよね。こういうのどう?」とpulse_mind_resemble_mind@〜というアドレスを考えてくれた事があった。その頃からpulseという単語は好きだった。人生の半分以上の時間、環境音と向き合い続けてきて、自然の中で録音制作をするようになってからも、起こる音に反応し続けていて、ずっと「脈」というイメージがあった。見えてはいないけれど繋がり続けている事があって、聴こえていなかったけれど鳴り続けている音があって、想像を働かせながら探し続ける。0:36あたりで鳴っている音と前述しましたが、結氷した湖の氷とマイクとの距離感で録れた音だと思います。音量を上げて聴いてもらえたら基本ずっと鳴ってる音(1:18が1番わかりやすい)が電気信号のようで最高に好き。

◼︎M2「母胎」

全面結氷した氷下は気温や積雪量にもよるけれど、太陽の光が当たり始めてから色々な変化が起こりだす。母胎と名付けたこの音源は、おそらく雪が降った数日後で、1〜2cmの積雪がある状態。アイスドリルを使って穴を開け、氷下の音を聴いてみたけれど、細かく小さく鳴っている氷の音がたまに聴けるものの、破裂のような音も、膨張のような音も、電気信号のような音も無い日。
同じような事は何度も経験済みで、録音に出掛けていない際に、ではまた同じ環境に出会った時にどうしよう?と、あれこれ考えるのだけど、その一つに、バスボール(入浴剤)を購入し、それに石鹸の入れるような網に入れ、底に落ちないようにして垂らし、バスボールから泡を出し、その音と共に録音しようと思いやってみた音源。音源冒頭から鳴り続けているのが泡の音です。
別な話、氷下の音源は「水中マイクの音だけなの?」とたまに訊ねられますが、無常disc2の音源の殆どは地上で音具類にオンマイクを立ててます。この録音では波紋音をバチで押さえ付けるように連打してミュートするように鳴らす事でサスティーンを切るようにする事で、電子音的なイメージで鳴らしています。エコー音っぽいなと思った事と、湖の中の音を聴きながら録音している事と、録音地にある山が産前のような形に見えたのでこのタイトルにした。
2「母胎」 5「漂流」 8「沈潜」 11「100℃ ⇔ -30℃」 15「差異」 16「境界線のデバイス」は泡シリーズ。
ちなみに「Micro Ambient Music」に収録した「ice」でやっているのも同じ手法( https://microambientmusic.bandcamp.com/track/ice-2 )。「ice」は無常に収録したかったのですが、編集した音源時間の関係や容量、全体の音像の並びからカットした。

◼︎M3「熱源」

3と4は、地上ではとても静かで何も起こっていないように思える時間も、氷下では色々な事が起きていたっていう音源。象徴的なのは0:16の氷の破裂音なんだけど、これは地上だと湖が少し鳴ったなくらいにしか聴こえない。disc1で氷が破裂しているような音の場合は、地上でもハッキリ判るくらいなのだけども、0:16くらいの単発の音は「ボコン」くらいにしか地上では聴こえてはいない。


もう一つ象徴的な現象が1:58から起こっている音なんだけど、地上では「ヒョー」っていう感じの風が舞っているような音しか聴こえていないんだけど、氷下では「ドコンドコン」と氷自体が鳴っていたり、地上で聴こえている「ヒョー」って音が中では「ゴーーー」って鳴っているのが判る。disc1の「住処」と同じ状況なので比べてみるのも良いかも。

0:16の音は、氷上で氷鳴りが鳴った時に氷下で起こっている音。水中ではこのような音の拡張がされています。また、全編を通してピキピキ細かく鳴っているのは氷の軋みなどの音。ソレに対してブラシを波紋音に突っ込んで混ざってます。1:00や1:07の音は遠くの方で0:16のような音が鳴っている音。1:57は広範囲で氷鳴りが起こっている音。その終わりに足しているのは波紋音をなぞった音。2:57の「ヒュン」って音はドラムブラシを波紋音の切れ目に滑り込ませて引いた時に鳴る音。この頃マイブームだった手法。4:00頃から終わりまでの流れが好きで、ブラシを波紋音の切れ目に出し入れして鳴らしている所に色々な環境音が入ってきてるんだけど、4:11〜4:12に良い間で「ポーーーン」っていう氷鳴りが起きてるのとか、コンビネーションみたいに繋がっていく時の羅列が好き。環境音と自分の割合が逆転した感じで。ライブでもそんな音の羅列からリズムを抜き取って、強調したりして演奏してます。

◼︎M4「世界」

地上ではとても静かな音源のもう1テイク。無常はどの音源も自分が動いてしまった際に鳴ってしまう音など、自分が意図していない音を鳴らさないように動いているんだけど(1stも2ndもだが)、他の録音では拾わないくらいの小さな音でも、自分が動いた音が入ってしまってるくらい静か。冬の録音を初めてからは自分で1音起こすまでに1分以上間を空ける事が多くなり、極々極々小音で何かをし続けている録音。何もせずただ聴いてる時間がとても増えた。それでもCDに収録する事も前提にはしているので、短めの間で音を入れているところもあるけれど(故に、間を逃さないためにアイドリング状態みたいに極々小音量で何かしている事も多い)、何か大きな動きが起こってもすぐに反応しないようにしてるのが判るかなと思います。全体の音数の少なさに、3:41と4:35に1音鳴らした後に湖が鳴る流れからの5:12の音にドンピシャで反応して鳴らしてるのがめっちゃ好きで収録した。何百時間と氷の変化を聴き続けてきてからの、静かな流れでの一発決め。
1曲3分くらいのポップスを聴いて育った世代なので、自分のような作風でも3分前後を意識して全体の構成を考えていて、5分半は相当容量を取られてしまうので収録したくないという気持ちもあるのだけど、この録音が無常の1枚目からの流れの中でも象徴的だなと思っていて、自分の本質を示したかったのもあり外せない録音だなと。タイトルの「世界」は自分の価値観はこんな感じっていう意味合いを込めて。水中マイク4本に、地上でマイク8本。地上に立ててるマイクの音量バランスを6:4くらいで編集。点で捉えられる音数が少ないのと、微音が多いので、自分が環境音として捉えられるように聴いてもらいたい音数で録音。1:55など、自分が僅かに動いた音が氷が鳴っているようにも聴こえるくらい、僅かな音操作。波紋音などの音は大きな氷鳴りに連動するように、その他の微音たちは擬態するように。余白がより活きるように。最後の反応の速さが出来るように常に前屈みの意識。

◼︎M5「漂流」

泡シリーズ2つ目。日が登って湖全体が日光に照らされると結氷した湖全体で氷鳴りが起こるので騒がしくなっていく。音数のピークは大体AM9:00〜10:00くらい。「漂流」は8:00〜9:00くらいだと思う。2.「母胎」と比べると、仕掛けた泡以外に、水中内の音数が多くなっていて、その種類も豊富になっているのが聴き取れると思う。水中マイク4本、地上のマイクは音具を狙った2本。波紋音の上に小さな手乗りサイズの波紋音を乗せてグリグリ擦り付けて音を鳴らしたり、波紋音の上に載せた別の音具を時折軽く触って揺らして音を鳴らしてみたり。1:39〜1:42のところは何となくリズム刻んでみたらラス1の音に氷の音が被さって大袈裟になった。他にも幾つも泡シリーズの収録候補があるのに、これを選んだあたりが、やっぱり3分前後の〜の価値観があるところだなと思う。disc1の湖全体の時間経過シリーズ同様、泡シリーズも時間経過で並べているものもあり、2.「母胎」よりも後の時間帯のもので、この後の湖騒がしい時間帯パートの6「領域」7「交差点」に繋げるための展開替えフック的な意味合いでこの位置に収録。

◼︎M6「領域」

冬の音源を録り始めた当初は氷下に興味を持たなかったので、地上で無音が続く環境下の中、観察する事(聴く事・観る事)の解像度をひたすら上げる年月になった(1年目は特に積雪があり、求めていた氷鳴が聴けなかった事もあり、ひたすら音を探し続けていた事も大きな要因)。当初は全体的にもっと一見すると何も起こっていない音源というイメージで録音していたんだけど(勿論よく観察し続けると気がつく事が増えていくのだが)、録音を開始してから5年が経った頃に(その時は)氷上でやりたかった事はもう全部録れてしまったなーと思った時に、まだまだ終わりたくないなー、何かないかなー、と思った事もあり、湖の中に水中マイク入れてみるかー、とやってみたら、地上で聴いていた音は、直だとこんな事になっていたのかー!!!と、氷下で起こっていた事に魅了された。そんな経緯もあり、地上と水中の色々な氷の音を録り続けた膨大なデータを聴き返した際に、編集の段階で、何も起こらないくらい静かな音源という当初のイメージから、経験してきた事がしっかり反映されたものにしようと思った。

「領域」は、AM9:00〜10:00、遅くても10:30くらいまでに録った音源。水中マイク3本と地上に2本。貝殻に水を入れて捻って音を鳴らしてる音(終始入れてますが2:00〜2:02の音がわかりやすい)や、基本的に5と同じ感じく波紋音に何かを乗せてコロコロしたり、自分で結氷した湖に音具を当てたり身体で擦ったりしてる。どんな音が鳴るのかはやってみないとわならないので、身体性全開っていうノリ。

それまでの環境音を聴いていたら2:35電子音っぽく鳴らしたくなった音。水っぽく、氷っぽく、電子音っぽく。

◼︎M7「交差点」

湖のど真ん中で録音したので「交差点」。水中マイク3本と地上に2本。disc1の6.「氷平線 」と同じ手法を氷下の音と共にやってみるとこうなりましたという音源。disc1でも内部ではこんな事が起こっていたんだという対比。アルバムの構成的に入れた。

◼︎M8.「沈潜 」

泡シリーズ。この後に続く9.「宇宙」への前振り。
【沈潜(ちんせん)】
1. 水底深く沈むこと。
2. 深く没頭すること。
この録音は、機材トラブルなのか何なのか原因不明の低音がBPM65くらいで鳴っていて、それが海底に潜っていっているようだなと思ったので付けたタイトル。テクトスピラミスという貝殻に水を入れて音を鳴らしていますが、今にして思うと水中マイクの音だけでも良かったかも。ヘッドフォンやスピーカーで聴いてもらえたら謎な低音が聴こえます。

◼︎M9「宇宙 」

タイトル「宇宙」は氷が鳴っている音がガンダムのビームライフルの発射音みたいな音だなと思ったから。ソロモンやア・バオア・クーが見える。湖から一つの音の波が起こり、それが減衰し切るくらいに波紋音を鳴らす事を意識して音を入れる事のみに集中した録音。間とかテンポ感が徐々に一体になっていっている感じが好き。水中マイク4本、地上に波紋音を狙ったオンマイク2本。この日以外にこの録音のような氷の音を聴いた事が無い。かなりのレアケース。氷の厚みかな。他のデータが無いので未だ分からず。よく一撃で録音出来たなと一番思う録音。反応良すぎなのと、偶然が重なり続けていて、何年も行ってきたご褒美を頂いた感覚。深謝。氷下の残響が過去一長く、また、よく響く録音。地上3:7水中の割合で編集。残響がしっかり鳴っている環境下だったので、自分も残響をしっかり聴けるよう心掛け、基本、波紋音を普通に鳴らして、音楽的にしようと音を置いていっているので分かりやすいと思います。

0:48の音ホント謎。メチャクチャカッコいい。

1:30の音とかガンダム過ぎる。

3:16と4:28ニュータイプ過ぎる。

◼︎M10「鐵冴ゆる 」

無常をリリースする前に自主音源として販売してた「鐵冴ゆる」のショート版。単体でリリースした時の意図は演奏していない時間が演奏の前後にあって収録時間が23:00。disc1では銅鑼で持続音をやったので、disc2でもと、波紋音をバチでロールして(ドラムの奏法)、持続音をやってる音源を収録。湖で起こる色々な音たちと。自主音源の方と音の配置や音量など編集をちょっと変えてます。余談ですが、一時期ずっとこの音程でライブしてたんだけど、録音やライブで波紋音を駆使し続けているので、同じ音が出なくなった。自分としてはこの音の感じ聴くと当時のあれこれを思い出す。水中マイク4本、地上にマイク5本とハンディレコーダー。

◼︎M11「100℃ ⇔ -30℃ 」

北海道の道東は阿寒湖にある「ボッケ」の録音。ボッケとはアイヌ語で「煮え立つ場所」という意味で地質現象の「泥火山」のことを意味します。
気温が-30℃で、ボッケは100℃あるのでこのタイトル。
水中マイクを出したり入れたりしてるんだけど、そんな中に水中マイク入れるもんだから、この録音後に水中マイク壊れた。
余談ですが録音をしてるとある年に、某アーティストさんに「松本さんボッケの写真あげてましたね!新作で聴けますか?」と言われたので、当初氷の音じゃないし収録するつもりなかったんだけど、期待してくれてる人がいるなら収録しようかなと思って入れた音源。並び的にこの後の「生き物」も道東で録音し音源なのでまぁ良いかって事で入れた。某アーティストさんが無常を聴いたのかは未確認。笑
あと言う必要はないんだろうけど、水中マイクだけじゃなくてハンディレコーダーの音も混ぜてる。
ボッケは有毒ガスも噴出していますので絶対に真似しないでください。勝手にやっているだけです。

◼︎M12「生き物 」

オホーツク海に浮かぶ流氷の音を求めて流氷の上に乗り、沖の方まで行って録音した音源。落ちたら死ぬます。絶対に真似しないでください。勝手にやっているだけです。1〜3月に流氷が接岸するのだけど、温暖化もあってか近年は流氷の量が少ないらしく、埋め尽くしている時間が短い。そんな中で、初めての流氷の録音。最初は海岸辺りでと思って音を探していたのだけども、音があまり鳴っておらず、探しているうちに沖へと向かっていた。風向きが変わったら一気に沖の方まで流されて陸に戻れなくなる可能性があるので、状況的にいつもよりも早く録らなきゃという状況だったので、沖の方まで行って録ったのは2度しか録音を回してない。ようやくここだ!と思えるポイントを見つけ、早速機材を並べて録音開始。両手にマイクスタンド2本、リュックに詰められる荷物量が重過ぎると大変なので厳選した波紋音3つとレコーダーとマイクのみ。水中マイク2本と音具用に2本、アンビに2本。流氷の音の感じを聴いていたら波紋音をバチで擦って音を鳴らすのを即選択。何かの鳴き声みたいに聴こえるのが流氷の鳴っている音で、流氷同士が海面の動きで擦れ合い鳴っている音。何かしてやろうじゃなくて、音環境と一体になろうっていう意識。時間が無い中で焦らず丁寧にしっかり聴いてんなーとコレを書きながら思った。

頭っからずっと鳴っている音は、流氷と流氷がぶつかったり、擦れ合ったりして起こっている音。その環境に混ざって波紋音を擦って鳴らしたりしてます。僕のライブを観たことがある人は僕が起こしている音を識別出来ると思うのですが、念のために。

ヘッドフォンやスピーカーじゃないと聴きとれないと思いますが、0:12〜15のように低音が鳴っているところをちゃんと収録したいと思ってたんだけど、テイラーには低域削った方が良くない?と言われたけど拘りだったので削らず。2:38〜2:40あたりのキンキン鳴ってるの俺の音なんだけど、自然音みたいだなーと自分で思った。どうやってんだろうか。多分メチャクチャ優しく少しだけ触れるくらいで擦ってるんだと思うんだけど。バチじゃなくて素手かも。最後の5:17〜5:40で鳴らしている音は長靴で流氷自体を擦っている音。タイトルは共に道東を旅した今野裕一郎くんが流氷を見た時に「生き物みたいだ」と言ったのが良いなと思ったのでいただいた。

◼︎M13「風ではない波でもない 」

とある日の夜、流氷が接岸してる海でのフィールド録音。流氷のサイズが大小色々あって、また、アイスシャーベット状に鳴っている環境。「さーーー」って鳴っている音は波の音ではなく、風の音でもなく、(多分)流氷自体から起こしている音。場所に行った際、風が吹いている肌感覚が全く無いのに風が吹いてる音がする。何だろう?と思ったら流氷から音がしていて感動した。環境全体を狙ったマイク2本だけで録音。まぁ、、、厳密に言うと、音が派生している条件として、風ではないけど波は関係している。

◼︎M14「余白 」

深夜の湖の汀にて。焚き火の音と氷下の音。深夜の結氷した湖の音が凄く良い。チャリチャリ。パリパリ。たまに鳴る氷鳴りの残響も際立ってて良い。disc1の焚き火の録音「ひとひとひと」の対比。どこまでが氷の音でどこまでが火の音かわからない。水中マイク4本、地上にマイク4本。

◼︎M15「差異 」

泡シリーズ。小さな穴を空けたペットボトルを焚き火三脚に吊り、ペットボトルに水を入れて、雫を音具に当てて音を鳴らしています。同時に、水中にはバスボール(入浴剤)を入れて泡の音を録音。落ちる雫の音と浮かび上がってくる泡が、共に中間にある氷に向かってくる様。氷を中心に、地上と水中、雫と泡の差異。色々やってきて、上とか下とか関係無い感じになった。氷点下でやっているので水は早い段階で凍ってしまい、氷を通して水が垂れようとするんだけど、徐々に間隔が長くなっていくので、音源のようなテンポ感が生まれてる。水中マイク3本、地上に3本。

徐々に消えていく主としていた音(雫)に色々閃きがあり、14〜17の流れにしている。

◼︎M16「境界線のデバイス」

泡シリーズ。北海道は道東にある屈斜路湖にて録音。屈斜路湖も源泉が湧き出ている湖で、湧き出ている点が複数あるのだけども、それらの泡を水中マイクで狙った音源。今野くんと知床を録音の旅している際に、オロンコ岩という所で流氷が接岸していた日に波紋音などを使用して録音していたある日に、スマホをマイクケーブルの上に置いて時間を確認しながら録音していたところ、電波を拾ったスマホからノイズが鳴るという事を発見した。それを屈斜路湖の大量の泡に対してやりたいと思ってやってみた音源。自分が1番影響を受けている音楽が電子音楽で、生で電子音のような音が鳴らせるようになりたいと思い今に至るのだけども、屋外で環境音と共に1発録音という手法で作品を作るようになってから、まさかリアルに電子音を収録する録音が録れるようになるとは夢にも思っておらず、この録音が出来た時、氷の音源を制作し始めた頃の自分を超えた録音出来てしまったと、CDのテキストにも書きましたが、完全に氷の音源が完成する録音が出来てしまったと思った。水中マイク4本使用。

◼︎M17「回転する時間」

3月下旬、もしくは4月頭頃。湖に張っていた氷が溶けていく日を毎年見てきた。溶けていっている際の音。冒頭からずっとヒヨヒヨ鳴っているのが溶けている音像。音源中盤頃から聞こえ始めて徐々にフェードインしてくる音は、特定条件の雪上を車で走ると一定の音域が鳴っている事に気がついたので、自分で車で走っている音(2:00〜が凄くわかりやすいです)。無常のジャケット写真はVincent Galloの「When」が好きで、そのオマージュなんだけど、録音場所に向かう時間はあれこれ考える特別な独りの時間という事もあり、車で走っている音を入れたかった。録音開始当初車の音に悩まされてた事もあるし。タイトルは、平石博一さんの「PRISMATIC EYE」に収録されている「回転する時間」という曲が好きで、毎年冬になっては繰り返し氷の録音をしてきた自分の事と、時も音も絶えず流れていっている様を思って付けた。こちらもオマージュ。

後書き

無常リリース後も氷の音源は冬になる度にやっています。いつか続編がリリース出来るかもしれませんし、誰の耳に触れる事なく自分で聴いているだけになるかもしれませんし分かりません。

音源を聴いて環境に興味があったら全面結氷した湖に音を聴きにいってみてください。なんだったら録音してみてください。さらに無常を楽しめると思います。

音の羅列を何度も聴いてもらいたい。徐々に音の流れを覚えていくと思います。何度も聴いているうちに音が言語のように捉えられる瞬間が来ます。聴く事の造詣が深まり、僕が何故ここに音を置いたのかが腑に落ちると思います。

無常を聴いて、あなたの日常に何かしらの影響がある事を願っています。